唯一のチエの主観カット

藤田:さて、『じゃりン子チエ劇場版』に話を戻します。 これは小田部さんというか、どちらかというと演出のカットだと思うんですけど。チエの主観カットっていうのが、劇中で1カットだけ入るんですね。それがこいつなんですが。

(ゴーカートに乗るチエからの主観で、テツとヨシ江が並んでるカット)

ようはテツがヨシ江と肩を並べているのをチエがゴーカートから見てるというカットなんです。 これ専門的ですけど、作画的にいうと回り込みをやっているだけなんですが、背景のスライドのスピードとの違和感があるからか、妙な印象があって、通常の回り込みよりかはちょっと妙な印象が残る。複合的な動きが組み合わさっている。
カメラが寄ってますよね。このカットだけちょっと違うんですよね、前後のカットと比較すると。そういう意味でちょっと面白い。

應矢:この場面を覚えておられる方いらっしゃいますかね。ゴーカートでチエちゃんが、ものすごいスピードで1位で走っているんですけど、ちらっと見たらテツの手がヨシ江はんの肩に手がいっているのが見えて、今までずっとトップを走っていたチエちゃんがぶつかって、これが気になって走れなくなるという場面の、その時のチエちゃんの主観の場面ですね。

最後に。理想の制作現場とは

藤田:当時のテレコムって作画スタジオとして勢いがあって、いろいろこうやろう、ああやろうってのがあった。 小田部さんは外から唯一テレコム外のスタッフとして作画監督として入られた。 コントロールする段階で気を付けられたこととか、さっきお話を聞きましたけど、あまり気にせず、いつも通りという感じだったんですね。高畑さんとはどういう打ち合わせをされてたんですか。

小田部:それに関しては何の打ち合わせもをしないで、大塚さんたちは一緒にやってきた仲間なんだから自然に。

藤田:アウンの呼吸ですか。

小田部:それでこの時に良かったのは、テレコムにもフロアが違いましたけれども、作画の人が一緒にいますし、仕上げの人は下か上にいます、とにかく、何かあったらすぐ、これがいいねとか、言える関係だったんですよ。

藤田:当時のアニメスタジオっていうのは外注化が進んでて、作画の人は外にいて、なかなか顔をあわせる機会がない。 美術は美術で別のスタジオで。

小田部:何かちょっと違うなと思っても、それをすぐに伝えることができないんです。ですから、テレコムのように中で全部まかなっていると、動画もチェックしますし。

藤田:それはかなり大きかったですか?

小田部:本当にアニメーションンの作り方は、ゲームでもそうですけど、とにかく近くに仲間がいるってことですね。口で言う、あるいは描いて見せる、それで済むんですから。

應矢:コミュニケーションをとりながらっていう。

小田部:そうそうそう。

應矢:先ほど、最初の方でおっしゃってましたが、高畑さん、宮崎さん、小田部さんがやっぱり三人でこう色々と意見を出しながら、コミュニケーションをとりながら作っていくという姿勢ですね。

小田部:そうなんですね。

應矢:もう早くも実は第一部の時間がきてしまいました。休憩後に2部、今度はゲーム業界と小田部さんのお話をお伺いします。

第2部へ:ファミ通.comレポート
(第1部テキスト化協力:木川明彦)

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