動きの連続性
藤田:チエが「こらー!」て、怒鳴りつけると。怒りますよね。これも漫画的によくある口を大きく開けて怒鳴りつける表現なんですが、これも分解してみてみると、(連続画が、流れる)この辺からかなりリアルな絵柄になっている。
歯茎といい、ここで横顔になる。目より上の部分は変わっていない、下の口パクと言われる口の部分のディテールが妙にリアル。ここだけぱっと見ると『進撃の巨人』のキャラじゃないか、みたいな感じに見えるぐらい。 目から下の部分の表現がとってもリアル。
これもやっぱり漫画だと絵として表現できる。連続だとちょっとリアルが入っていると。この辺もやっぱり匙加減が難しいと思うんですけど。
小田部:これも演出が漫画にあった、でっかい顔のそんな表現をアニメーションに活かすには、アニメーションでも活かしたいと思って、監督がそうしてるわけですよ、コンテ上。
藤田:その辺って作画監督が大塚さんと2人体制だったんですけど、どういう感じの割り振りをされてたんですか?
小田部:この場合はキャラクターは僕がはるきさんのからアニメーションのキャラクターは作り直して設計図にしました。
作画に入って動きになるときの担当は、大塚さんは主にテツ。僕はチエとか猫とかヨシ江とか。
藤田:猫も小田部さんだったんですね。
小田部:そんなふうに分けてましたけれども、絵コンテを作る時にときに大塚・高畑と一緒になって、顔を突き合わせながらこういうアングルでこう描きたいんだっていう高畑さんの狙いを大塚さんが描いてくれる。その時にかなり緻密にバックなんかも描いてる。
藤田:絵コンテのそれぞれの画がレイアウトになっている。
小田部:そうですね。その絵を伸ばせばレイアウトになるだろうってぐらい、描いてましたね。
藤田:絵コンテとおおまかなレイアウトは大塚さんの手によって描かれたものという形ですね。
高畑さんは他の作品でもそうですけど、コンテの清書をアニメーターの方がされているという感じでしたが、今回は大塚さんだったという形で。
小田部:そうです。『太陽の王子ホルスの大冒険』でも、高畑さんは大塚さんが一緒に。
藤田:小田部さんは、高畑さんと絵コンテの仕事をやったということは?
小田部:やってないですね。僕がやったのは『どうぶつ宝島』で一緒だった池田宏と『空飛ぶゆうれい船』の時に池田と僕で絵コンテを作るとか、そんなことをしてましたね。
應矢:絵について質問があるんですけど、小田部さんといえば目の横のピンクの、ハイジに代表される頬っぺたですね。なぜ頬っぺたがああいうふうにピンクになったのかを調べましたら、高畑さんの指示だったと読んだんですが。
小田部:最終決定は高畑氏なんですけど、アニメーションというのは、ぼかしたりして本当はやりたいんですよ。だけどもアニメーションの場合は、ぼかしですと大変ですよね。エアブラシを使って、そうするとエアブラシの吹き方で動いたりしちゃいますよね。 そこで丸でやったり、あるいは健康な顔の表現として赤みの。普通は台形なんですよ。こうやって僕は描いてますけど、それでいくつかの中に真ん丸なのもあって。そうしたら最終的に監督が真ん丸でいきましょうって言った。
僕はびっくりしてね。描いてみるけど恥ずかしくて嫌だなって。だけど真ん丸いきましょうと言ったのは高畑監督だった。
キャラクターデザインしている間には、こうやって楕円形にしてみたり。いろんなものがありますけど、最終的には丸でいこうって。
應矢:先ほど、見ていただいた『じゃりン子チエ』なんですけども、漫画の原作自身もですね、はるき先生のシーン頬っぺたがちょっと赤みがあったりするんですが、アニメーションだとはっきりと頬っぺたが丸く描かれるようになってたんで。
小田部:キャラクターとしてはほっぺの丸をつけていますね。
應矢:これもやっぱり漫画からアニメに変わる時に、チエちゃんの幼さというか、そういったものを出そうと思ってそういう頬っぺたにされたのかなと疑問にあったんですけど。
小田部:やっぱりそうですね。
應矢:僕は小田部さん、高畑さん、宮﨑さんといえば、小さな女の子だけども大人顔負けの女の子っていうのが主題に出てくることって多いのかな?っていうふうに思ったりしたんですが、その中で女の子の幼さっていうのを出す時ににこういう表現を用いるのかなと思ったんですけど。
小田部:幼さとかやっぱり元気の良さですよね。よくある表現方法ではあるんですけど。
『じゃりン子チエ劇場版』における「歩き」の表現
應矢:(観客に向かって)今見ていただいてるのは、歩き方ですね。
藤田:そうですね。歩きも『じゃりン子チエ劇場版』の特徴だと思ってまして。
これを見てもらうとわかるように、歩きでけっこう芝居をしている。 例えばこれはチエが最初は怒ってカツカツと歩いているけど、途中からふーっと力が抜けて下を向きながら歩くという表現になっている。
この辺って、当時テレコムや参加したアニメーターの技量が高かったっていうのあると思うんですが、やはり歩きの作画パターンを作られたり、考えたりしたんですか?
小田部:漫画の原作を活かそうと思うもんですから、そこにはるきさんが描いた元気のいい歩き方があるとしますよね。そうするとこれはコマ上では成立しているけれども、ちゃんと動きの中で出来るだろうかと心配なので、作画に入る前にはテストで何回も作ってみて、自分なりに納得いくところまで。これでいけるとなったらそれを設計図というか説明書きを皆に回す。
藤田:これはテツはけっこうリアルですよね。普段は足をピンピンとはねたような歩きをするんですけど。
小田部:そういう場面は、テツもちゃんとした歩き方をしていると思います。
(マラソン大会のシーン)
藤田:これなんかは逆にチエ的なリアルではなくて、どちらかというと東映動画的なリアルというか、もういかにもテレコムの当時の作画力を見せつける走り方だと思うんですが、チエちゃんが走るのは完全にリアル志向というか、格好いい走りですよね。
應矢:前傾姿勢ですよね。
藤田:このマラソンのシーン、別のカットではテツが子どもたちのマラソンに参加してきます。
これ、よく見ると奥の子供たちの走りはさっきのリアルなままなんですけど、テツの走りはあきらかに漫画走りですね。全然違うスタイルの走りが同じ画面に混在している。
應矢:実際この走り方をするとこんな早くないっていう走り方なんですよね。でも早いっていう。
藤田:手前のカルメラ兄弟も含めて全員が足ピーンと伸ばす漫画的な跳躍をした走りなんですけど、奥の子供たちはちゃんと足の跳ねがあったりするリアルな動きの走りをしている。これを混在すると、テツが浮かび上がってくる。走りでテツたちの存在感の違いが浮かび上がってくる。
應矢:これ僕的にはだいぶ大人が大人げないとイメージで見たりするんですけど、そういう意識で作られたんですか?
小田部:もちろんそうでしょうね。
(小鉄、ジュニア、お好み焼き屋のおやじ、チエ、テツが歩く横向きカット)
藤田:映画のラストの方のシーンです。
ここの特徴は、猫たちとチエとテツの歩きが全部バラバラに違うと。このお好み焼き屋のおやじは酔っぱらってるので、猫と同じ歩きになっちゃってるんですよ。これはギャグで、アントニオJrとお好み焼き屋のおやじはペアですから、おやじは酔っぱらって猫に同化した歩き方になっている。さらにチエの歩きがあって、さらにさらにテツの歩きがあって。 チエはカランカランカランのリズムで、テツはペタン・ペタンペタンのリズム。
小田部:これ、頭にでた前からみたポーズですと、歩きを誤魔化したりするんですけど、横から見た歩きもあったんですね。
藤田:これ大変ですよね。まったく違う歩きを1画面に収めるのって。
小田部:これ、今見るとちゃんと誤魔化しているのが分かりますね。猫はどんなに大股に歩かせても、どうしたって歩幅が人間に負けるから普通なら追い抜かれますよね。でもここでは、お好み焼きのおっちゃんは、着地時にちょっと足の位置を後ろにずらして歩幅を小さくしたんですね。
藤田:確かに、足の着地のときに、おやじが、すっと気づかない程度にバックしてますね。
小田部:チエなんかは、正しめに歩いて、テツなんかもあの歩きだったらもっとバンと前に着くのに。
應矢:着地時に位置を後ろに戻してますよね。
藤田:ちょっと戻してる。
小田部:そういうことで、このカットで全部のキャラクターが入るように調整をとっているわけですよね。 本当に行ったらもっとテツはピーンと。
藤田:もっとピーンと行きますよね。この歩幅だったらどう考えても追い越しますよね、 チエの履物って下駄、テツは雪駄じゃないですか。普通の靴の歩きと違うから結構面倒くさいですよね、作画的には。プランプランとちょっと足を残さないといけない。これもやっぱり作画の指示とかあったんですか?当時。下駄の歩きはこうだよみたいな。
小田部:もちろん作ったと思うんですけど、この場合も3コマで、それほど細かいことはしてないんじゃないかな。普通の歩きよりは使ってますね。
藤田:下駄が残った部分とかですね。
小田部:普通だったらちょっとやってもうぺたんとついちゃう。ちゃんとこうやって。
藤田:こういうペタンっていう下駄と足の動きがちょっと入ってくる、とっても大変なカットですね。