チエのキャラクター・デザインについて
應矢:チエちゃんの横顔っていうのがポイントなんですよね。
小田部:実はそうなんですよ。先ほども言いましように、チエの漫画のコマのほうを見ますとね、表情をこれだけ見ちゃうと、とぼけ顔とかガハハと笑った顔とかね。そういうものがほとんどだと思うんですけど、チエちゃんはね、高畑監督は必ずそうなんですけど、その物語の中に、あるいは主人公の中の、いくら陽気にやっても、祭の後の寂しさじゃないけど、ちゃんと人間が持っている悲しみとか寂しさ表現する人だったんですよ。
だから僕も、なにかチエからチエの人間像を掴まなきゃいけないわけですよ。その時にヒントにしたのが、はるきさんが描いたこの水彩画だったんです。ここにはるきさんが感じてるチエがいるんだと思って嬉しくなりました。本編じゃなくて、表紙の絵はありませんか?
(じゃりン子チエの1巻の表紙を映す)
應矢:まさしく1巻の表紙の裏がこれですね。
小田部:それとかね、中表紙というか、中をめくったところに、いい顔があったりしません?
(1巻の中表紙を写す)
應矢:なにか寂しそうな感じの。
小田部:寂しげなね。 これなんかはチエはこれだと思って、そんなのを反映してキャラクターを作っていった覚えがありますね。
藤田:ちなみに、今お2人が会話している間に昔のアニメージュを調べてて、発掘しました!
当時の制作総指揮の仙石さんが書かれた文章なんですけど。(資料・アニメージュを朗読)
「9月24日第1回目のキャスティング会議。場所はテレコムの2階。出席者はキティの伊地知氏、東北新社の加藤氏、そして高畑、大塚、小田部、片山、仙石の各氏。」
書いてあるじゃないですか!!どうですかっ!(会場爆笑)
小田部:忘れておりました(笑)
藤田:(笑)それで各三名ずつ候補を出して、決定したと。チエを押したのは録音監督だった加藤さん。その夕刻から主要スタッフ全員で、埼玉県飯能市にある旅館へ移動して、監督、作監2人、助監督、美術の山本さん。五日間山籠もりをされていると。
小田部:その温泉だけは覚えてます。秩父の近くにある寂しげな旅館なんですよ。でもそこは若山牧水?なんかがちゃんと歌に残しているような。でもお湯がぬるいんですよ。ちっとも温かくならない。
藤田:そこで準備で色々キャラクターをどうするか。
小田部:そこに漫画の本なんかを集めて皆で読みあったりして。
藤田: 「ビールは2本しか飲まなかった」と書いてあります。かなりハードなスケジュールだったんですね。
小田部:あと、制作進行がスタッフが逃げ出さないように、進行が自動車でなにか用事で旅館を出ていくときには旅館の人に「絶対に頼まれても車だけはださないでくれ」って言ってたそうです。
藤田:それはやっぱり大塚さん対策ですかね。大塚康生さんはふらっと逃げるという。じゃあここで大体キャラクターをどうするかとかストーリをどうするかという話合いをされていた?
小田部:ほとんどの人が、はるきさんの原作が好きだった。もうこの良さを出そうってのが基本でしたね。
実は裏話なんですが、シナリオをある関西で有名な作家の方にお願いしていたんですよ。
藤田:藤本義一さんですね。
小田部:そうなんですよね。あの方も売れっ子の作家でしたから。その方に頼んで大阪だったらこの人っていうんで。
それで出来上がったシナリオを見たんですけど、まあそれはそれは大阪らしいというか、乱暴な大阪らしい。通天閣がドーンってあって。
藤田:「ここで!わてら!頑張りまんねんっ!」みたいな(笑)
小田部:まさにそう。でも僕らが感じたチエはこれじゃないんじゃないかって全員思いました。そしたら監督が「僕が(脚本を)書きます」と。
藤田:当時映画化された時の原作って7巻まで発行されてるんですね。調べてみると。 そこから満遍なくいいところをチョイスして一本の映画にするっていうのが定石だと思うんですけど、今見直してみると、映画のお話がだいたい1巻に集中している。もう丁寧に1巻から全部のエピソードを描いていって、途中にふっと、別の巻のエピソードが入ってくる。
この構成、かなり高度だと思うんですけど、やっぱりそれは高畑さんの構成によるものなんですか。
小田部:たぶん後でお話にでると思うんですけど、例のヒラメちゃんって子ね。もう非常に面白いキャラクターが出てくるわけですけど、どうしても丁寧に描くためには、出し過ぎてしまうとそこを描けないって言うので、泣く泣くというか思い切ってそこはずばっと切るとかね。それは監督ですねやっぱり。
藤田:キャラクターデザインは小田部さんがやっていますが、例えばチエちゃんをヒロインとして可愛い子として設定しようとしたのですか?それともそうじゃないと。小田部さんのイメージするチエはどういうものでしたか?
小田部:漫画のチエはですね、テツを殴りつけるとかね、乱暴であったり、男の子をやっつけます。下駄でバーンと殴ったり、明るくて元気なチエちゃんですけど、やっぱりそこには、先ほど話した、内面的なものが出た、ふとした表情の部分ですね。そのチエちゃんを含めて、キャラクターを作ろうと思いましたね。
ですから、作業としてまずやったのは7巻まである漫画からいろんなチエの顔を書き写しました。漫画ですとね、そのコマごとの表情でいいわけですよ、だけどアニメーションっていうのは、全部通して連続画で表現しないといけない。 そのキャラクターの表情変えるってことでね、表情が変わるにしても、その表情がどう変化していくまで描かなきゃいけないわけですから。アニメーターは。ですから、そんなことを考えながらキャラクターを作るわけですね。
藤田:テレコムの作画スタイルは、大塚さんが指導をされたので、東映動画の流れの動きですよね。結構リアリティがある動き。 一方、漫画のチエは、ポーズで笑わせるというか、リアルではないポーズがいっぱい入っていますし、歩きだって前足がピンと伸びたものとか、口がおちょぼ口だったり、リアルとはかけ離れてる。
この漫画での表現に対する挑戦が、実は劇場版を見てると、色々おもしろい試行錯誤があって楽しいんですよね。
(『じゃりン子チエ劇場版』の予告編を流す)
小田部:本当に漫画のコマと同じ。
藤田:ほぼ同じですね。
小田部:こんなに同じだったのって改めてビックリしてます。